英国王室

ジョージ3世とシャーロット王妃の前での演奏:モーツァルト一家のロンドン

2024-04-08

昨年ロンドンの大英図書館に行った時、モーツァルト直筆の楽譜を見ることができました。

そこからモーツァルトとイギリスのつながりについて気になっていたのですが、この天才少年が家族でヨーロッパツアーをしていた時、現在のバッキンガム宮殿で演奏していたことを知りました。

国王夫妻の前で演奏した日、一家が滞在していた場所などもちゃんと記録に残っていて、歴史を遡れるようでとても嬉しい。

いつかロンドンでモーツァルトの足跡を辿る旅をしたいと考えている方に少し参考になればいいなと思っています。

ロンドンへ

1764年、春。モーツァルト一家は新たな音楽的冒険を求めてザルツブルグを離れロンドンへと旅立ちました。4月23日、8歳のヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは父レオポルト、母アンナ・マリア、姉マリア・アンナ(ナンネル)と共に厳しいドーヴァー海峡を越えた後、馬車でロンドンに到着したのです。

父レオポルドはザルツブルグ宮廷楽団の一員として活躍していましたが、彼の野望はそれだけでは収まりませんでした。ヨーロッパの文化の中心の空気を吸い、その地で新たな音楽的インスピレーションを求めていました。そして、何よりも天才的な息子ヴォルフガングが広く認知されることを望んでいたので、教育、マネージャーとなりウィーン、パリへ演奏に連れて行っていたのです。

ロンドンへの訪問も、そんなモーツァルト兄妹を音楽の神童として公演や私的なパトロンに紹介するという野心的なヨーロッパツアーの一環でした。

イギリスはかつてヘンデルやバッハといった偉大な音楽家を輩出した国だったのですが、18世紀中頃にはその輝きを少し失っていた。そんな中、モーツァルト一家のロンドン訪問は、新しい才能を求める都市に新たな活気をもたらすことになったはずです。

滞在していたセシルロード

モーツァルト一家が最初に住まいとしたのが、今は古本屋が立ち並んでいるロンドンのセシル・コート。国王の謁見にもこの家から向かい、そしてここでその他の講演のチケットなども販売していました。

当時あった建物で理髪師ジョン・クーズンのもとに、1764年4月から8月までの4ヶ月滞在していたのです。

現在の住所は、WC2, CECIL COURT, 9, MARK SULLIVAN ANTIQUES で、モーツァルトがかつて滞在していた場所としての銘板も出ています。

セシルコートは1894年に再開発されているので当時の建物ではないのですが、少年モーツァルトが過ごした場所として今も歴史に刻まれています。

謁見日

さて、いよいよ国王陛下の謁見です。1764年4月27日と5月19日の2回。

この時代の国王はジョージ3世(1738-1820)とシャーロット王妃の時代。宮廷はセント・ジェームスパレスだったが、モーツァルト一家が国王と王妃に謁見したのは王妃の宮殿だったクィーンズ・パレス。

クィーンズ・パレスは現在のバッキンガム・パレスです。この場所は、1703年バッキンガム公爵ジョン・シェフィールドが建てた建物でバッキンガム・ハウスと呼ばれていました。その後1762年にジョージ3世が購入し、王妃の宮殿として改造しました。

王妃の死後、息子のジョージ4世はお気に入りの建築家ジョン・ナッシュに改装させて完成したのが1830年。そしてバッキンガム・パレスとなったのですが、王は使うことなく亡くなって、その後ヴィクトリア女王が宮廷と住居に変えて現在に続いています。

国王と王妃の前で素晴らしい演奏を見せて、子供たちは1回につき24ギニーをもらいました。こうして経歴に素晴らしい箔をつけたおかげでこの後数々の講演会を開き、さらに多額のギャラを受け取れるようになります。

8歳の子供が、宮殿という華やかで格式ばった場所、そして国王やたくさんの取り巻きの人々がいる前で演奏できるなんてやはり並外れた子供たちだったのでしょうか。

ロンドン滞在がもたらしたもの

モーツァルト一家のロンドンの滞在はトータル15ヶ月に及ぶ長期間でした。

さらに複数の演奏会を行い、大きな成功を収めた。特に注目すべきは、6月5日にセントジェームスパークのスプリングガーデンズで開催された音楽会で、この日、彼らは3時間で100ギニーもの収入を得ました。

6月29日にはロンドンの西側チェルシーのラニラ・ガーデンズのホールでも音楽会があり、自作の曲をオルガンやハープシコードで演奏しました。

その後も多くの演奏会を開き、ロンドンで名声を不動のものにして、たくさんのファンを惹きつけることに。音楽キャリアにとって、非常に重要な一歩でした。

1765年の7月には、大英博物館に訪問した一家は、ヴォルフガングが父の助けを借りて作曲した最初の宗教音楽作品であり、唯一の英語テキストの作品「神は我らの避難所」のコピーや、パリで出版された2組の鍵盤ソナタのコピーと共に預けました。

大英図書館にとってモーツァルトは図書館に原稿を提供した最初の作曲家なのだとか。

大英図書館所蔵のモーツァルト直筆の楽譜

上記は、2023年ロンドンの大英図書館で実物を見てきたモーツァルト直筆の楽譜。楽譜はイギリスの女性からの遺贈のものです。

この曲は1789年6月に作曲されたD長調の弦楽四重奏曲第21番、K. 575。「バイオレット」という愛称で知られています。プロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム二世に献呈された曲で、絶頂期に書いた作品なのだとか。

このように今ロンドンにある大英博物館にはモーツァルトの膨大なコレクションが所蔵されています。そのきっかけはジョージ3世とシャーロット王妃での御前演奏がきっかけだったのでしょうね。


(参考)
「ロンドンー世界の都市の物語」小池滋著 文春文庫
https://amzn.to/3VQ49tT

British Library blog  https://blogs.bl.uk/music/2014/04/mozartmanuscriptsonline.html
London Remebers https://www.londonremembers.com/memorials/mozart-wc2


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