クラッグサイド(Cragside)はイングランドの北東部ノーサンバーランドに位置する大邸宅。ウィリアム・アームストロング氏が作り上げた、科学技術と芸術の素晴らしい組み合わせでできたカントリー・ハウスをご紹介します。
クラッグサイドは、ファンタジーという言葉が似合う場所でした。ファンタジーって、空想、想像とか非現実的という意味で、科学者の作る邸宅には不釣り合いな言葉のようなのですが・・・現実離れした、ちょっと夢のような美しさや、想像を遥かに超える革新的さに溢れていました。さらに、1人の弁護士から、世界中のVIPたちが訪れる場所を作り上げたっていうところが、ファンタジーだなと思った理由です。
実際に訪問して気づいたのは、ヴィクトリア時代のインテリアで飾られたたくさん部屋がたくさんありました。ウィリアム・モリスやダンテ・ガブリエル・ロセッティのラファエル前派の作品にも出会えてびっくりです。
そして日本との意外なつながりにも。
どのようなファンタジーな要素があるのか?どうぞ最後までお付き合いください。
イングランド北部、スコットランドに近いノーサンバーランドの旅行の2日目(2023年9月2日に訪問しました)
驚異な発明家、アームストロング卿とは
ウィリアム・アームストロング卿(1810-1900)はまず弁護士としてキャリアをスタートさせます。 それからエンジニアに転身し、“油圧機械“を作成。この油圧機械がのちに作り上げる クラッグサイドを驚異の館にするのです。
イングランド北東部のニューカッスルにある経営していた工場では、最盛期には25000人の従業員を雇い、油圧クレーン、船舶、兵器の製造で大成功します。ロンドンにあるタワーブリッジの建設にも関わっていたんですよ。
1887年、その数々の功績のよって、ヴィクトリア女王から男爵の爵位を授けられます。彼は貴族院のメンバーになった最初のエンジニアなんだそうです。
革新的な家には驚く仕掛けがたくさん
クラッグサイドにある邸宅の中は本当に驚く仕掛けがたくさん。今となっては当たり前のようなものばかりですが、当時は本当に多くの人が驚いたと思います。
例えば、敷地にある人工湖と地下の配管によって、世界初水力発電で照明された家なのです。ジョセフ・スワンというこちらもイギリスの発明家が白熱灯を発明し、彼の白熱灯を使うことで1880年には広範囲に照明を使うことができました。
そして、油圧機器は家に水を供給するだけでなく、他にもこんなことも可能にしました。
・人や物を運ぶエレベータ
・キッチンには食器洗浄機
・肉を焼くときに回転する焼き串
・庭園の温室にはセントラルヒーティングがあり果物栽培を
・植物が日に満遍なく当たるように回転する植木鉢
712ヘクタールの森のような広大な敷地
アームストロング家の敷地面積は712ヘクタール。もうよくわからない広さですが、71.2平方キロメートルとなります。
東京都町田市の面積が71.6平方キロメートルだということなので、ほぼ同じくらいですね。(と言われてもああなるほど!とはわからないですが・・・)
敷地の中は、一言で言うと森でした(笑)車で クラッグサイドに向かう途中、遠くの方に明らかに他と違う濃い緑の木が生い茂った森が見えてたんです。 その中に、邸宅と、ロックガーデン、人工湖、鉄の橋、温室もある美しい庭園などが広がっています。
森を作っているのが、160年前に植えた700万本の木たち。特に北米の針葉樹を、この地に合うように選び植えられました。イギリス国内でも最も高い木もあるそうですよ。
もともとは不毛の土地を、アームストロング夫妻は25年の歳月をかけ各方面の専門家とともに現在の姿にしていきました。
ファンタジーな外観の秘密
建物の外観は、いろいろな建築スタイルが組みあわせて作られています。『ハリーポッター』に登場するホグワーツ魔法学校も色々な建築スタイルが組み合わさっていますがそれに似たものを感じます。
ギャブル、城壁、チューダー様式の煙突、ゴシック様式のアーチなど、多様な建築スタイルが合わさって想像上の物語に登場するお城のような雰囲気です。
アーツ・アンド・クラフトの最高のインテリア
邸宅の内部は、ウィリアム・モリスやダンテ・ガブリエル・ロセッティらによるデザインが特徴。ヴィクトリア朝の美意識を反映した、豪華で手の込んだインテリアが素敵です。
お客様はロイヤルファミリー
その豪華さと革新性から、クラッグサイドはロイヤルファミリーなどの名だたる訪問者を数多く迎え入れていました。
アフガニスタンの皇太子、イランの皇帝、中国の政治家など。
そしてのちのエドワード7世とアレクサンドラ女王となる皇太子夫妻も滞在。
そのような重要なお客様様の滞在する部屋はこちらのスウィート・ルーム。
日本との深い繋がり
邸宅内には”Japanese Room”があり、日本の美術品や家具も多数置かれていました。この部屋は3代目のアームストロング男爵が代々の日本との繋がりによって作ったのだそうです。
昭和天皇の義理の叔母にあたる徳川為子様とご主人の徳川頼貞様との交流も深かったようで、2人から贈られた浮世絵などが飾られています。
さらに帝国海軍の強化のために、日本はアームストロング男爵の重要な顧客として、船や武器を購入していました。
1953年には、当時皇太子殿下だった今の上皇様が、エリザベス2世女王の戴冠式に出席するためイギリスを訪れた際、ここ クラッグサイドに招待され滞在されたそうです。
対日戦で多くの兵士が日本軍の捕虜収容所で苦しむことになるなど、第二次世界大戦が終わっているとは言え、当時のイギリスでは日本に対する感情は快くないものでした。
そんな中アームストロング男爵は長い日本との付き合いから招待をすることを決めたのだとか。
邸宅内の応接間には陛下の写真が今も飾られていました。
クラッグサイド訪問を終えて・・
ここからは、今回クラッグサイドに行っての感想です。
私は数年前、カントリー・ハウスのオンライン講座を開催していました。そこで参加してくださった方から「カントリーハウスにはいつ頃電気が通ったのでしょうか?」というご質問をいただきました。そのことを調べているときに辿り着いたのがクラッグサイドでした。
発明家によるアイデアとそれを実現した集大成の場所。その中に大好きなウィリアム・モリスやロセッティのラファエル前派の世界のインテリアが広がっていたこと。そして日本との深いつながりも知って感動が高まりました。
海外に行くと日本のこと考えること多くなります。兵器ということで繋がってしまった日本とクラッグサイド。戦争後の戴冠式に当時の皇太子様はどんな思いで出席されたのか、またアームストロング氏と親しかった徳川頼貞氏や駒子さんはどんな方だったのか。知らないことがたくさんです。
クラッグサイドはイギリスの歴史の中でも結構重要な場所だと感じたのですが、意外と私の周りの人は名前すら知らないというイギリス人がたくさんいました。遠く離れた地域の文化遺産にはあまり興味がないのか、それとも兵器製造という歴史が何か影を落としているのだろうか。
クラッグサイドに行くには
私は今回は車で行きました。
ナショナルトラスト・クラッグサイドの公式サイトによると下記のように書かれています。
道路からのアクセス方法:
A1からA697の標識に従ってください。A697をロングホースリー村とロングフラムリントン村を通って進みます。約4マイル後、ムーアハウス交差点で左折してB6341に入ります。クラグサイドの入口はこの道路を左に3マイル進んだところにあります。
バスでのアクセス方法: ニューカッスルからスロプトン行きのX14アリバサービスがクラグサイドに停車します。メインエントランスでバスを降りると、歓迎チームがお迎えします。バスの時刻表はオンラインでご覧いただけます。
▼詳細はこちらです
https://www.nationaltrust.org.uk/visit/north-east/cragside#getting-there-map
交通手段がカントリーハウス訪問の難関です・・・
ナショナルトラスト管理のコテージがありますし、近くの村ロスベリーRothburyにもホテルがたくさんあるようです。宿に泊まりゆっくりとクラッグサイドを見学するというのが理想ですね。
▼ナショナルトラスト管理のコテージ、Cragside Garden Cottageです
-
Cragside Garden Cottage Northumberland | National Trust
A Northumberland getaway in the blossoming gardens of Cragside.
www.nationaltrust.org.uk
クラッグサイドの基本情報
クラッグサイド Cragside
住所:Rothbury, Morpeth, Northumberland, NE65 7PX
公式サイト:https://www.nationaltrust.org.uk/visit/north-east/cragside
クラッグサイドはナショナル・トラスト管理の施設です。