お屋敷訪問記

ウィリアム・モリスの壁紙が残るスピーク・ホール (Speke Hall)訪問記

500年の歴史を持ったお屋敷に、今も残されたウィリアム・モリスの壁紙。

スピーク・ホール(Speke Hall)は、ビートルズで有名なイギリス リバプール近郊のマージー川そばに建つカントリーハウスです、白壁に黒い梁や柱からできるデザインが美しいハーフ・ティンバーの建物。

中にはウィリアム・モリスの壁紙が当時の姿で残っている!と知りワクワクして行った訪問記をお届けします! (訪問日は2016年5月)

スピーク・ホール(Speke Hall)の歴史

スピークホールは、ハーフ・ティンバーという梁や柱をそのまま外部に露出して、その間を石や漆喰で埋めるヨーロッパの建築工法で建てられた建物です。

イギリスの15世紀末から17世紀初頭にかけて普及したチューダー様式。これは、ヘンリー7世からエリザベス1世に渡るチューダー王朝時代(1485ー1603)に興った建築であるところからこう呼ばれています。Speke Hallはこの時代のものとしてはとても綺麗な状態で残っているため、貴重な建物になっているのです。

歴史は500年以上にもさかのぼり、また2つの家族の物語もあります。両家はともに、大西洋横断奴隷貿易とカリブ海のプランテーションで財を成した家族です。

この土地にはもともと中世の屋敷があり、1530年ごろノリス家(Norris)が屋敷を建築し、そこから200年にも渡ってこの一族に受け継がれていきました。

その後1795年に地元の裕福な商人ワット家(Watts)が、荒れ始めていた屋敷を購入して改修が始まりました。

1856年には急速な変革期が訪れて、チューダー様式の邸宅にゴシック・リバイバル様式のファッショナブルなインテリアを取り入れるため、大規模な修復が行われました。華麗な彫刻が施されたオーク材の家具やステンドグラスから、鎧兜やタペストリーまで、熱意は邸宅全体に。しかし当主夫妻が亡くなり幼い娘が引き継ぐと、大人になるまで屋敷は借地人へ。

1867年から10年住んでいたのが、リバプールの海運王のフレデリック・レイランド。彼も大規模な改良をしました。

レイランドは芸術家のダンテ・ガブリエル・ロセッティやジェームズ・マクニール・ホイッスラーなどのパトロンでも有名。スピーク・ホールに今も残る3枚のモリスの壁紙を使うよう、レイランドに助言したと言われているのはロセッティ。1868年にロセッティはこの家に訪ねているらしいし、ホイッスラーもここでレイランド家族の肖像画も描いている。

1878年になると、Watt家の最後の女主人アデレーン (Adelaide Watt)が住み始めました。1921年に亡くなった時、独身で子供もいなかったため、死後は執事が20年ほど屋敷の管理を引き継いでいました。

現在のナショナルトラスト管理になったのは1942年のことです。

今は穏やな時間が流れている場所に建っている屋敷ですが、長い長い時間と共に様々なドラマがあったんだろうなぁと想像してしまいます。

建物の中へ

こちらの道を進んで行くと入り口になります。

正面玄関を入り少し建物を抜けると広い中庭に出ました。

残念ながら写真を取り損ねてしまいましたが、中庭にはペアの大きなイチイの木がありました。

大きな木が影を作り、葉っぱの間から光が溢れて中庭をとても素敵な空間にしていました。ここに椅子をおいて、ミルクティーを飲みながら本でも読みたい!!そのような過ごし方が似合う場所でした。

ヴィクトリアン様式のインテリア

外観の少し重々しい感じのチューダー様式とは違って、インテリアは優雅でロマンチックなヴィクトリアン様式です。

ヴィクトリアン様式とはヴィクトリア女王(在位1837~1901年)時代、産業革命で大繁栄したブルジョワ層と呼ばれる裕福な市民の間に広まったスタイルです。ゴシックやロココ、古代ギリシャといった過去の様式を折衷的に復活させる一方で、鉄やコンクリート、ガラスなどといった工業的材料を取り入れた、古典的で装飾的なデザインが特徴です。曲線的なフォルムに細かい装飾がほどこされたところに、ロマンチックではあるけれど軽くはない程よい重厚さを感じさせます。

Small Dining Room

フレデリック・レイランドが改修した部屋。

テーブルには当時の朝食を模型で再現してあります。明るい光がたっぷり入るこんな部屋で優雅な朝食をとっていたんですね

トーストやパン、卵料理・フルーツに紅茶。肉料理にも見えるようなものがあるけれど、あれは何だろう。

Great Parlour

こちらは Great Parlour。応接間といった感じでしょうか。

張り出し窓のある空間に、アフタヌーンティーセットがテーブルに再現されていました。スコーンにショートブレットのようなものも見えます。ヴィクトリア女王が好きだったと言われているヴィクトリアン・ケーキもあります。

1612年に加えられたという天井の石膏の装飾がとても豪華です。

今はこんなに美しい部屋ですが、1855年の記録によると部屋はまさに廃墟といった姿にまで荒れてしまっていたそうです。その後ここまで美しく復元するには、多額の費用と時間がかかったんだろうと想像できます。

Blue Drawing Room

こちらも客間。

1624年の記録には、カーテンやカーペットなどが全て青で彩りされていた部屋だったためこの名前です。チェスやカードゲームなどを楽しんでいた部屋だったようです。

現在のウィリアム・モリスの壁紙は最近になって変更されたもの。デザインはモリスが1874年に製造した柳模様です。

モリスの柳模様の壁紙と、アジアの陶磁器の組み合わせが素敵に調和しています。

Library

こちらは書斎です。ウィリアム・モリスのざくろの壁紙が目をひきます!

そして暖炉に使われている1800年ごろの青と白のデルフトタイル。

ナポレオンの肖像画も見えます。

Great Hall

かなりの広さと天井の高さがある大広間。

多くの人が集まるパーティーなどにも使われていて、重々しいシャンデリア、オーク材のパネルがはめられた壁、大きなガラス窓にステンドグラスが豪華です。

今はこの広間lで結婚式を挙げることができるようになっています。

このようにイギリス中にたくさんあるカントリーハウスでは、パーティーなどの会場のレンタルや、映画やドラマの撮影などにも数多く使われているんですよ。

William Morrisの壁紙

多くの部屋にウィリアム・モリスの壁紙が使われていました!

ウィリアム・モリス(1834-1896) は建築や美術の芸術家でもあり、思想家や詩人でもあり、近代のデザイン史にも大きな影響を与えた人です。彼は中世のロマンスの世界に憧れ、手仕事からうまれる自然に根ざした美しさを大切にすることを説き、美しいと思わないものを家に置いてはならないと語っていました。イギリスの産業革命は近代化の大量生産によって、安価だが粗悪な商品が世に溢れるという結果をもたらしました。モリスはこの状況を批判し、手仕事への回帰と、生活と芸術の統一を推進する「アーツ&クラフツ運動」を主導した人物です。彼の理想と同じ思いを持つ工房やアトリエが多く生まれました。

書斎のざくろのデザインの壁紙。モリス初期のころのデザイン。

2階へ

2階には家族のプライベートな空間になっていて、豪華な寝室が並んでいます。

Oak Bedroom

こちらの豪華なベットある部屋は、1630年にチャールズ1世が滞在し泊まった部屋であるそうです。そこからRoyal Bedroomとも呼ばれていたそうです。

色々なカントリーハウスでここは王や女王が滞在したと説明を見ることがあります。ロイヤルファミリーを受け入れることものすごく光栄なことであるでしょうし、自分の一族が認められた!!という大いなる証になるんだろうなぁ。しかし受け入れる緊張感や準備は相当のもののはずで莫大なお金も必要になります。

Tapestry Bedroom

Tapestry Bedroom には豪華なタペストリーが壁に飾られている寝室でした。

子供用のベットもありました。刺繍の模様がとても可愛らしい!!

Bathroom

タペストリーベットルームの隣にあるバスルーム。

ここはかつては衣装を着替える部屋だった場所でしたが、20世紀の初めにバスルームに改装されました。厚くニスが塗られたウィリアム・モリスの壁紙で飾られていました。

各寝室でブリキのバスタブが使用されていたので、その後も家にはバスルームは3つしかなかったようです。

部屋の中や廊下には、当時の衣装の展示もありました。ウエストのあたりがかなり細く見えます!この時代はまだコルセットをつけていたはずですよね・・・

お屋敷を支える使用人たちの仕事場

カントリーハウス内では多くの使用人達が住み込みで働いていました。使用人の中にも序列があります。上級使用人とは、使用人の長である執事、女性使用人の長である家政婦、料理人たちをまとめる料理長、男性の個人付き使用人の従者、女性の身の回りの世話人の待女などです。その上級使用人の下で働くのが下級使用人たち。食事の準備、後片付け、洗濯、アイロン、靴磨き、銀器磨き、服のメンテナンス、子供のお世話、庭の手入れ、馬の世話...思いつく限りあげてみましたがもっともっと様々な仕事があり、日々業務もこのスペースで行っていたのです。

天井に近い所にたくさんのベルが並んでいます。使用人に用事がある時、ご主人たちが各部屋から呼び出しをする時に使われます。ベルの下には部屋の名前のふだが掛かっていて、どの部屋で呼ばれているかわかるようになっています。お屋敷が舞台となる映画やドラマの中で度々出てくるので目にする機会もあるのではないでしょうか。

長い机の上にはミシンなど様々な作業道具が置かれています。

こちらは使用人たちが食事などをとるテーブル。先ほどの作業テーブルのところもそうですが、殺風景でとても質素なスペース。朝から晩まで仕事に終われ、冬は寒い中仕事をしていたんだろうなぁと想像してしまいました。

次はキッチンエリアへ。大きなコンロ、壁にはたくさんの鍋やフライパンが掛けられていて、調理器具もたくさん並んでいました。ここで普段の食事から、パーティーなどの大人数の食事まで作られていました。

緑が美しい庭園を散策

美しく歴史を感じる邸宅内の鑑賞が終わったら、外に出て庭園の散策です!

南側に面したこの前に広い芝生のエリアが広がっています。この場所で当時の当主や家族が散歩したり、座ってゆったりとした時間を過ごす様子が1849年に描かれた絵画として残されています。

16世紀にはこちら側が建物の正面玄関であったと考えられていて、先ほど見てきたBlue Drawing RoomやGreat Hallはこちらに面しています。

またこの写真では綺麗なばらが見ることができないのですが、ローズガーデンもありました。ガーデンに面した部屋は豪華な応接間であるGreat Parlour。

砂岩でできた張り出した屋根付き玄関は1612年に付けられたものだそうです。

こちらのゲートの上には、当時の当主 Sir William Norris IV と妻の Eleanor Molyneux のイニシャルと1605の数字を見ることができます。

建物の前から続いている道をずっと進んで行くと、一面に広がる青紫色の絨毯に出くわしました。これはイングリッシュ・ブルーベルのカーペット。ブルーベルは私たち日本人にとっての桜のような春のような存在、イギリスの春の訪れの花なんだそうです。新緑の中の青い絨毯はとても幻想的で美しい景色でした。

ベルという名前の通り、釣鐘型の青と紫が掛け合ったような可憐な花です。

形が整えられた木が均等に並んでいます。美しさを損ねることなく保護する方法もさすが!

木でできた迷路。私は途中にある階段で上がった橋の上にいて全体像を見ています。

迷路の奥に見える緑のパラソルが立っているところがカフェのエリア。こちらでランチも取りました。本日のお野菜ポタージュや温かい料理プレートも美味しかったです!

小さな姪っ子が2人いたために、机の上がかなり大変なことになっていて残念ながら写真は残していません・・・

さらに左に目を向けると子供用のプレイグランドには滑り台など遊具もありたくさんの子供たちが遊んでいました!

スピークホールの管理はナショナルトラスト

ナショナルトラストは、イギリスの歴史的に価値のある建物や庭園などを数多く保存管理しているボランティア団体です。観光客が支払う入場料やお土産やレストランで使う料金などが、その莫大や管理費用の一部に当てられています。

駐車場からエントランスに向かう途中に見つけた表示です。ここには年137,000ポンドの費用がこのお屋敷の維持にかかると書いてあります。2024年5月現在は1ポンド195円。換算だと約2700万円。私が訪問したのは2016年のことなで、それから世界的に物価も急上昇しているので今はもっとかかっているはずです。

この看板は寄付のお願いであります。入場料やその他にここで使ってもらったお金は、美しいお屋敷や庭園を守り、将来へ残すためになるのだと書かれています。

私は、イギリスの美しい田園風景、庭園の花々、街並み、遺跡や芸術品を自分たちの誇りに感じて大切にして未来に残そうとしているところが大好きです。自分たちの活動の意義をしっかりと伝えた上で、寄付のお願いも堂々とおこなう。その姿勢は素敵だし見習うところが多いと感じています。

スピーク・ホールへの行き方

スピークホールはリバプール・ジョン・レノン空港に隣接しています。庭園の目の前に空港が見えたのでびっくり。空港を目印に行くのがわかりやすいのかも。

私は車で行ったため、公共交通機関でのアクセスが利用しやすいのかわかりません。公式サイトによるとバスや電車で行くとなるとかなり大変そうですね・・・

少し情報を抜粋しておきます。

電車だと、リバプール・サウス・パークウェイ駅(Liverpool South Parkway Station)または、ハンツ・クロス駅( Hunts Cross Station)から3.2キロの距離にあります。

バスだと、入り口から約8キロ以内に、多くのバスが発着しています。入り口からレセプションまではさらに8キロあります。市内中心部からお越しの場合は、リバプール・ワン・バス・ステーションからリバプール空港方面行きのバスをご利用になり、運転手にできるだけスピーク・ホールの近くで降ろしてもらうようご依頼ください。

事前に公式サイトでチェックすることをおすすめします!


スピークホール(Speke Hall)

住所:The Walk, Speke, Liverpool, L24 1XD
公式ホームページ:Speke Hall,Garden and Estate


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