ジェイン・オースティンの不朽の名作『高慢と偏見』は、19世紀初めのイギリス社会を舞台に、愛と誤解、そして階級の壁を越えた人間関係の複雑さを描いています。
この物語には、魅力的なキャラクターとともに、彼らが生活する4つの象徴的なカントリー・ハウスが登場しています。
ペンバリー:ダーシーの本拠地。正真正銘の大邸宅で、エリザベスがダーシーに対する印象を大きく変えるきっかけとなった場所。
ロングボーン::賑やかで暖かなベネット家の家庭。多くの家族ドラマが繰り広げられ、物語の中心的な舞台です。
ネザーフィールド:ビングリーが一時的に借りた邸宅で、ジェーンと出会い愛が深まる重要な場所。
ロジングス:ダーシーの叔母レディ・キャサリンの堂々とした豪邸で、彼女の権威と支配的な性格が現れてます。
これらの邸宅が小説内でどのような役割を果たしているのか掘り下げながら、BBCのドラマと映画では、どのような場所がロケ地として登場したのかもご紹介します。
ロケ地が物語をどのように豊かにしているのか見ていきましょう!
「高慢と偏見」に登場するカントリー・ハウス
物語の中で印象的なのは、登場人物たちが生活するカントリーハウスです。これらの邸宅は、それぞれの性格や社会的地位を反映しているだけでなく、物語の展開においてもとても重要な役割を担っているのですよ。
ペンバリー (Pemberley)
エリザベスは室内をざっと見まわしてから、外の景色を楽しもうと窓辺に寄ってみた。彼らが下ってきた木々に覆われた丘は、離れて見るといっそう険しく見え、えも言われぬ美しさだった。どの自然の配置も優れていた。川や、土手に点々と生えている樹木、見渡す限り曲がりくねった谷など、目の前の光景すべてをエリザベスは快く眺めた。他の部屋を通り抜けていると、これらの風景はまた違う顔を見せたが、どの窓からの眺めもことごとく絶景だった。どの部屋も高貴な感じで風格があり、家具も持ち主の富にふさわしいものだ。しかし、けばけばしくもなく必要以上に豪華でもないので、エリザベスは彼の趣味の良さに感心した。ロージングズの調度品より豪奢でもなく、真の気品が表れていた。
ジェイン・オースティン. 高慢と偏見(下) ジェイン・オースティン翻訳集 (p.59).
所有者: フィッツウィリアム・ダーシー
ペンバリーはジェイン・オースティンが描く中で最も壮麗なカントリーハウスの一つです。広大な土地と整備された庭園、湖を含む風光明媚な自然に囲まれていて、ダーシーの洗練された趣味と豊かな財産が反映されている。
エリザベス(愛称で呼ばれていることが多いのでこれからはリジーで統一します!)訪れた時のペンバリーの描写は、ダーシーに対して気持が変化していく様子がわかります。これからの2人にとって重要な場所なのです。
邸宅はダーシーの貴族の長男として生まれた複雑な性格と、隠れた寛大で広い心も象徴しています。外見の堂々たる印象と内面の繊細さのギャップも表しているよう。リジーはそのことに知らないうちにそのことに気がつかされたのですね。
ロングボーン (Longbourn):
所有者: トーマス・ベネット
ロングボーンはベネット家の家族愛と絆の強さを映し出す舞台となっています。家は質素ですが温かい雰囲気があり、日常生活や社交が繰り広げられます。
この家は彼らの社会的地位が低いことを表している一方で、家族の個々のキャラクターが強調され、彼らの愛情豊かな関係が描かれます。
ベネット家の開かれた心と、外部の世界に対する彼らの接し方を表しています。
ネザーフィールド (Netherfield Park):
使用者: チャールズ・ビングリー
ネザーフィールドは一時的にビングリーが借りた邸宅で、彼の豊かさと社交的な性格を反映しています。
この場所では舞踏会や集まりが催されます。社交的イベントが、当時の社会の中でとても重要な場所であったことも伺えます。そして物語の中で重要な転換点となる場面にもなっているのです。
ジェーンの病気がビングリーとの関係を進展され、ジェーンを心配してやってきたリジーとダーシーも交流が始まります。
兄が自分達より社会的に下であるジェーンに本気になっていることに気がついたキャロラインが2人を引き裂く場所でもあります。
ネザーフィールド・パークの出来事は、主要キャラクターたちの人間関係の変化だけでなく、19世紀のイギリス上流社会の習俗と人間ドラマを色濃く見せてくれます。
ロジングス (Rosings)
所有者: レディ・キャサリン・ド・バーク
ロジングスはダーシーの未亡人の叔母、そしてコリンズのパトロンのレディ・キャサリンが一人娘アンと一緒に住んでいる邸宅。夫人の威厳と支配的な性格を色濃く反映した邸宅です。
社会的地位と自信に満ちた態度がこの家の豪華な装飾や広大な敷地によって表現されているのがわかります。自分の影響力を訪れる人に圧倒的な印象を与える設計になっているのです。
レディ・キャサリンのもとで非常に保護された環境で育ったアンは病弱であまり目立たないキャラクターとして登場しています。アンと甥のダーシーを結婚させるという夫人の気持ちには野心や社会的地位の固執も感じられます。
だからこそ、リジーの自立心と強さが夫人には鼻につくのでしょうね。社会的地位もレディとしての教養や嗜みも足りないと考えているリジーに甥を奪われそうで、たびたび対立が起こる場所でもあります・
BBCドラマ「高慢と偏見」のロケ地
BBCのドラマ『高慢と偏見』は1995年に制作されたテレビシリーズ。特にイギリスやアメリカ合衆国で大人気となってジェイン・オースティン作品としての地位をさらに高めました。
このドラマ、忠実な原作再現と、洗練された演出、優れた演技で称賛されています。特にコリン・ファースが演じるダーシーはたくさんの女性ファンの心を惹きつけました!
シリーズの成功は、その後のジェイン・オースティン作品の映像化ブームを促進しました。18世紀末から19世紀初頭の英国の社会風俗、服装、言葉遣いに触れることができ、当時の生活スタイルをリアルに感じることができます。
ペンバリー
ロケ地: Lyme Park(ライムパーク) ペンバリーの外観
ダーシーの家であるペンバリーのロケ地には、壮大な敷地と建物の理想的な調和が必要。ドラマシリーズの制作舞台裏が書かれている「The Making of Pride and Prejudice」によると、ペンバリーのような規模の家はほとんどなく、その家は力があり豊かで良いテイストがなけらばならないとのこと。
そこでライム・パークが見つけられたのですが、経営陣の交代で外観のみの許可になってしまったのだとか。
ライムパークはイギリス、チェシャーに位置する壮大なカントリーハウス、広大な公園としても知られています。今はナショナル・トラストによって管理のもと一般公開されています。
建物は16世紀に建てられ、特に17世紀に大規模な改築でイタリアン・レネッサンス様式の影響を受けた改装が加えられました。数百年にわたって異なる家族によって所有されてきました。
映画にも登場する邸宅が映り込む美しい池や散歩道があり、四季折々の自然を楽しむことができます。ドラマのロケ地のなったことから非常に有名になりました。特にダーシーが池で泳ぐシーンは多くのファンを惹きつける場面となったのです。
ロケ地:Sudbury Hall(サドバリーホール) ペンバリーのインテリア
ドラマではインテリアのみ使われているので外観は登場しませんが、サドバリー・ホールは赤レンガの美しい建物です。
こちらの部屋見覚えありますか?ペンバリーに招待されたリジーとガードナー夫妻が去った後、ダーシーがろうそくの灯りを持ちこのロングギャラリーを歩いていました。暗がりだったのですが、本来はこんな美しい天井装飾のある部屋だったのです。
サドバリー・ホールはダービーシャーにある17世紀に建てられた壮大なカントリーハウス。こちらも現在はナショナル・トラストによって管理されており、一般公開されています。
この家は、17世紀のイングランドのカントリーハウスの典型的な例とされ、バロック様式の影響が見られる豪華なデザインが特徴です。建築は、赤レンガ造りの外観と組み合わされたクラシカルなデザインが目を引きます。イギリスのカントリーハウスの中でも最も美しいとされる階段があ理、精巧な木工と壁画で装飾されています。多くの部屋には手の込んだ漆喰装飾の天井があります。
敷地内には、子どもたちの博物館である「The Museum of Childhood」も設置されていて、ビクトリア時代から現代にいたるまでの子どもたちの生活や遊びの変遷を展示しています。古いおもちゃや学校の教室の再現などで過去の子どもたちの日常を垣間見ることができます。
ロングボーン
ロケ地: Luckington Court(ラッキントン・コート)
ベネット家
ラッキントンコートははイギリスのウィルトシャー にあります。ドラマの中ではジョージアン様式のベネット家の質素だが心温まる生活の場所となっています。
実際の建物は古くは中世にまでさかのぼる歴史を持っていて、主要部分は中世後期から初期のチューダー時代に建設されたものです。長い間、様々な貴族や著名な家族によって所有されて、その間に何度か手が加えられています。美しいコッツウォルド石で造られた部分や、17世紀と18世紀の要素を含む改築が行われています。
上品だけど控えめな建築に、緑豊かな庭園に囲まれた雰囲気は、ベネット家の温もりと親しみやすさを象徴する舞台としてぴったりでした。
物語最後のジェーンとビングリー、リジーとダーシーのダブル結婚式ではフェイクの雪を降らせた中でも登場しています。
個人の所有する邸宅です
Luckington court, Luckington, Wiltshire
ネザーフィールド
ロケ地: Edgcote Hall(エッジコート・ホール) ネザフィールドの外観
エッジコートホールは、ビングリー氏が主催する社交的なイベントが頻繁に行われる場として使用されました。ノーサンプトンシャーにある18世紀の邸宅です。クラシカルなジョージアン様式で、対称性と古典的なプロポーションがエレガントな外観を作り出しています。
限定的な時間でのみ公開される場合がある場所で訪問には事前に情報を確認することが大切です。
ロケ地: Brocket Hall(ブロケットホール)
ネザフィールドの舞踏会ホール
ブロケット・ホールは1760年代に建てられたハートフォードシャーにある歴史的なカントリーハウスです。ここは多くの歴史的人物との関連や、政治的な出来事に関わってきたことでも有名です。
特に19世紀には、イギリスの首相を務めたロード・メルバーンがこの邸宅を利用しており、ヴィクトリア女王も訪れたことがあります。
クラシカルなジョージアン様式で設計されている邸宅の内部には、豪華な装飾が施された部屋があり、特に絵画や彫刻で飾られた大広間は見事です。広大な敷地内には、湖や美しい庭園もあります。
現在はホテルや結婚式場、会議場として、ゴルフコースやレストランも併設されている、レジャーやビジネスの場としても利用されています。
ロジングス
ロケ地:Belton House(ベルトん・ハウス) レディ・キャサリンの邸宅
ベルトン・ハウスはロジングスとして使用されたバロック様式の邸宅。レディ・キャサリンの権威と威圧感を強調します。
リジーが夫人に強要されピアノを弾くシーンや、 ダーシーが説明の手紙をしたためる部屋、そして夫人の質問から逃れるためにダーシーが階段を駆け上がるシーンもここで撮影されました。リジーやコリンズたちがロジングスに入っていく場面を美しくしているのは、整えられた庭園。
ベルトン・ハウスは、ブラウンロー家によって17世紀に建てられて、長年にわたって家族が所有していました。現在はナショナル・トラストによって管理されており、公開されています。
映画「プライドと偏見」のロケ地
2005年に公開された映画『プライドと偏見』は、美しい映像、音楽などでBBCドラマとはまた違った切り口で小説の魅力を表現してくれています。
映画特に視覚的な美しさと演出が注目されています。ジョー・ライト監督のデビュー作で伝統的な英国のカントリーサイドを背景に、リッチでロマンティックなビジュアルが最後まで続きます。キーラ・ナイトレイの演技は特に称賛され、この役でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされました。
映画は作品解釈にいくつかの現代的な要素を加えていて、キャラクターの心情や動機がより情熱的に描かれています。
ペンバリー
ロケ地: Chatsworth House(チャッワース・ハウス) 庭園、外観、ホール、彫刻の間などで登場
リジーたちはペンバリーに到着すると案内されてこの美しいホールを歩き、階段を登っていきます。
今チャッツワースを訪問しても同じようにここからスタートして見ていくことができます。それは映画で見た時の以上の豪華さと美しさの感動時間です!
ペンバリーとして選ばれたChatsworth Houseの壮麗なバロック様式の建築と、豊富なアートコレクションは、ダーシーの洗練された趣味と社会的地位を見事に表現しているのでは。
圧倒的な美しさと規模で、リジーのダーシーに対する気持ちが変わっていくのと、私たち見ているものが引き込まれていくのが同時進行に!
リジーたちがペンバリーに到着し、壁画と天井画の美しいペインティッドホールから始まるツアー。途中彫刻の間でダーシーの胸像に出会い、使用人からダーシーの当主としていかに素晴らしさを伝えるエピソードが語られます。
ジェーン・オースティンはチャッツワース近くのベイクウェルの町を訪れ、ホテルに泊まり時間を過ごし、チャッツワースがペンバリーのインスピレーションの元になっているのでは?という伝説も残っていますが、これは想像の域を出ない話。
でもたとえ真実でなくても、映画を見たらこの噂を信じてしまいたくなるはず。それほどにチャッツワースは壮大で美しくダーシーの家にピッタリだからです。
チャッツワースを建てたのは、女性当主のハードウィックのベスで1552年のこと。今も子孫のデヴォンシャー公爵のキャベンデッシュ家が住んでいます。
一般にも公開されていて、17世紀からほとんど変わっていない5つの公式の間やその他の部屋をたっぷりと見ることができます。
ロケ地: Wilton House(ウィルトン・ハウス)
応接間
リジーが叔母夫妻とはぐれペンバリーの中を彷徨いながら、ダーシーとジョージアナがいる応接間にたどり着きます。そんな印象的な場面は、ウィルトン・ハウスが使われています。
ヴァンダイクの巨大な肖像画が飾られているこの部屋はこれまでにも多くの映画やドラマにも登場しています。
ウィルトンハウスは450年間ペンブローク伯爵の家で、ヴァンダイクの他にもルーベンス、ブリューゲルなどの絵画、ギリシャやローマの彫像など素晴らしいアートコレクションがあります。映画ではインテリアしか登場しませんが庭園も素晴らしいです。
ロングボーン
ロケ地: Groombridge Place
ベネット家として登場
ベネット家の日常生活の場所として使用された17世紀のマナーハウス。暖かみのある田園的な風景、素朴な外観と木製の内装が、ベネット家の質素だが心豊かな生活を反映しています。外部の社会的圧力とは対照的に賑やかで親しみやすい雰囲気を作り出しているのです。
実際には、この邸宅は17世紀のマナーハウス。映画のために18世紀後半の少し見すぼらしい家に変身させています。窓が時代にあうように変更され、美しい中庭は泥だらけの農場として、豚、鶏、洗濯干しなどで変身しています。リジーが歩く橋も映画の中で作られました。
個人所有の家は一般公開はされていないようです。
1674年に作られた壁に囲まれた庭園が美しく保存されているようです。
Groombridge Place, Twnbridge walk, kent
ネザーフィールド
ロケ地: Basildon Park
ビングリーの邸宅
ビングリーが一時的に借りているネザーフィールド・パークとして社交の場として登場します。ミス・ビングリーとリジーが歩きながらダーシーをからかっていた八角形の応接間。舞踏会が開かれたボールルーム。ダイニングルーム。そしてビングリーがロンドンに旅立った後、使用人たちが家具に白い布をかけていく印象的なシーンなどがあります。
400エーカーの庭園内にある 18世紀のパラディアン様式の建物は、建築家ジョン・カーがデザインしています。内部には素晴らしい漆喰装飾、絵画、家具が内部にあります
今はナショナル・トラストの管理のもと一般に公開されています。
Lower Basildon, Reading, Berkshire
ロジングス
ロケ地: Burghley House
レディ・キャサリンの邸宅
Burghley Houseは映画でレディ・キャサリンの邸宅、ロジングスとして使用され、エリザベス朝様式の豪華な建築は彼女の支配的な性格と圧倒的な社会的地位を視覚的に表現しています。
応接間での会話、ダイニングでのやり取りで、レディ・キャサリンとリジーの対立シーンが重厚感のあるインテリアのおかげでより威圧感が際立っています。
実際のBurghley Houseはエリザベス1世の顧問であったウィリアム・セシルが16世紀後半に建設したもの。今も建てた家族の子孫が所有しているイングランド最大の家の一つ。
外観は当時とほぼ同じですが、内観は17世紀末に改装。その時ケイパビリティ・ブラウンが300エーカーの庭園もデザインしています。
応接間として使われたのが「天国」の部屋で、アントニオ・ヴェリオの素晴らしく、豪華な騙し絵で描かれた壁画が際立っています。
映画撮影時には、バーリ・ハウスのスタッフが執事とフットマンを演じたなんて裏話もあります。
Burghley House, Stamford, Lincolnshire